
「最近BLWっていう赤ちゃんに固形物と手づかみで食べさせる方法が流行っているみたい。でも、詰まらせたりしないか心配。赤ちゃんに任せて栄養はちゃんととれるのかな?」
こんな疑問をテーマに解説してみようと思います。
- 話題の離乳食の進め方:BLWの特徴
- BLWのメリットとデメリットを紹介
- 窒息リスクと栄養摂取について深堀り



この記事を書いている僕は、言語聴覚士として障害をもつ子の離乳食を支援しています。
最近、保護者の方から「BLWってどうなんですか?」と質問されることが増えました。
BLWについて調べてみると、メリットが多い一方で、注意すべき点・誤解が多そうな部分がありそうでした。
大切な赤ちゃんが窒息事故をおこさないためにも、離乳食についてはしっかりと理解して、慎重に進めていけると良いと思います。
BLWはそういった点でどうなのか?
前半部分では、BLWについて一般的な内容を紹介します。
後半で、海外で発表された論文の知見を紹介し、最後に僕なりの意見を書いてみました。
それでは、お読みください。
目次
話題の離乳食の進め方:BLWとは?



BLW(Baby-Let Weaning)とは、イギリスの助産師・保健師であるGill Rapleyが提唱した離乳食の考え方です。
BLWには以下のような特徴があります。
「赤ちゃんが家族と一緒に食卓を囲み、食べ物を探求し、楽しみながら食との良好な関係を育んでゆく。家族はそれを見守り、赤ちゃんの意思を尊重する。」
一般社団法人 日本BLW協会:BLWをはじめよう!(2020)原書房
BLWに「6ヶ月から手づかみで固形食を与える進め方」「海外セレブで流行っている方法」などのイメージをもっている人がいるかもしれません。
しかし、BLWは「進め方」「方法」ではなく、「考え方」「理念」に近いものです。
BLWの特徴:どんな離乳食の進め方??
BLWには以下のような特徴があります。
- 家族で食卓を囲む
- 赤ちゃんの食べ物の探索を見守る
- 食べ物をつかみやすい大きさ・形にする
- 欲しがる間は授乳を続ける
- 食べる速さ・量・ペースは赤ちゃんに任せる
順番に解説します。
特徴①:家族で食卓を囲む
従来の離乳食だと、1回食から始めて徐々に1日の食事回数を増やしていきますが、BLWでは必ずしもそうではありません。
家族の食事の時間に合わせて、赤ちゃんも食卓に参加させます。
ただし、食事を食べるかどうかは赤ちゃん自身が決めるもの。食べなくても構いません。ただ、そこにいるだけで十分なのです。
離乳食を始めたばかりの頃は、栄養をとることが目的ではなく、食材を見たり触ったりする中で「食べ物の特徴」と「食べるという行為」を学ぶことが目的になります。
特徴②:赤ちゃんの食べ物の探索を見守る
赤ちゃんが食べ物に興味を示したら、思う存分に遊ばせてあげましょう。
この時に、食べ物を口に運べるか?といったことは考えなくてOK。
大切なのは、赤ちゃんが「触る」「握る」「つぶす」「こねる」などしながら、目の前の食べ物を探索することです。
大人はそれを見守りましょう。
特徴③:食べ物をつかみやすい大きさ・形にする
赤ちゃんがつかみやすく、口に持っていきやすい大きさ・形に調理してあげましょう。
6ヶ月頃の赤ちゃんは、まだつまむことは難しく、手のひら全体で握るように持つことが多いです。
そのため、7~10センチくらいのスティック状の食べ物は赤ちゃんにとってつかみやすいと思います。
赤ちゃんの発達に合わせて調理の仕方を工夫していきましょう。
特徴④:欲しがる間は授乳を続ける
母乳やミルクは赤ちゃんにとって大切な栄養源です。
BLWでは「離乳食=断乳・卒乳」とは考えません。
授乳と離乳食は別物と考えてOK。
赤ちゃんの食べる量が増えて、自然と授乳回数や量が減ってくるのを待ちましょう。
特徴⑤:食べる速さ・量・ペースは赤ちゃんに任せる
BLWでは、どのくらい食べるか、何を食べるか、どのくらいのペースで食べるは赤ちゃんが決めます。
ちょっとしか食べなくても、気に入ったものばかり食べていても見守りましょう。
そうすることで、赤ちゃんが自然と楽しみながら食への興味や食べる能力を発達させていきます。
BLWで離乳食を進めるメリット



BLWで離乳食を進めるメリットは以下のようにたくさんあります。
- 家族で食事時間を楽しめる
- 赤ちゃんが食べ物の特徴を学びやすい
- 指先の器用さが育ちやすい
- 自信と自尊心が育まれる
- 離乳食を作る時間を短縮できる
順番に少しだけ補足していきます。
メリット①:家族で食事時間を楽しめる
食事はただ栄養をとるだけのものではなく、他の人と時間・経験を共有することも大切な要素です。
それは赤ちゃんだって同じです。
同じ食卓を囲んで、家族団らんの輪の中に入れることは赤ちゃんにとっても楽しいことのはず。
さらに、赤ちゃんが家族の食べている姿を見ることで食べ方などの自然と理解するようになります。
メリット②:赤ちゃんが食べ物の特徴を学びやすい
スプーンから運ばれた食べ物を見るだけではなく、手づかみで食べることで様々な感覚を受けとることができます。
「ざらざら」「つるつる」「ぐにゃぐにゃ」など。
自分の興味関心をモチベーションに、触ったり握ったりすることが大切です。
こういった体験の中から、食べ物の特徴を学ぶことができます。
メリット③:指先の器用さが育ちやすい
食べ物を握ったり、つまんだり。
大人にとっては簡単な操作でも、赤ちゃんにとっては大変です。
BLWでは、何度も繰り返し食べ物を触り、口に運ぶといった動作を経験します。
最初は握りつぶしてしまったり、途中で落としてしまったりすることも多いです。
しかし、毎日のように手づかみ食べを経験することで、目と手の協調性と指先の器用さが育ちやすくなります。
メリット④:自信と自尊心が育まれる
自分の力で食べ物を口に運んで食べるので、「自分でデキタ!」という経験を早期から積み重ねることができます。
また、食事時間が家族と同じなので、うまくできた時に褒められる経験が自然と増えるのもメリット。
そのような関わりの中で、赤ちゃんの自信と自尊心が育まれます。
メリット⑤:離乳食を作る時間を短縮できる
従来の離乳食では10時や16時に離乳食を与えるように言われることも多いです。
でも、この時間だと家族の食事の時間とずれています。
そのため、離乳食を作って食べさせ終わったら、次は家族の食事の準備……というように一日中家族の食事の準備をしているような感じになってしまうことも。
BLWでは、家族と同じ時間に食べさせますし、家族用の料理の中で同じ食材を使って、味付けをする前に取り出して赤ちゃんに食べさせればOK。
短縮した時間で赤ちゃんとゆっくり関わる時間を持つことだってできます。
BLWで離乳食を進めるデメリット



BLWで離乳食を進めるにあたっては、以下のようなデメリットもあります。
- 部屋が散らかりやすい
- 周囲の理解を得られにくい
- BLWの本質を知る機会が少ない
順番に説明します。
デメリット①:部屋が散らかりやすい
BLWでは生後6ヶ月頃から手づかみで食べることを促します。
赤ちゃんはまだ上手に食べ物を扱えない時期なので、グチャグチャにしたり床に落としたりすることは避けられません。
「散らかる」ということは当然のこととして、片付けやすい環境を考えると良いと思います。
例えば、新聞紙やレジャーシートを敷いておくのは有名ですが、養生マスカーテープを使うのが便利。この上で食べれば、散らかっても食後にシートごと捨てるだけです。
ただし、養生マスカーテープには、弱粘タイプと強粘タイプがあるので、室内でつかうなら『弱粘タイプ』を使うことをオススメします。
デメリット②:周囲の理解を得られにくい
日本では、まだBLWはそれほど浸透していないのが現状。
そのため、周囲の理解を得ることは難しい場合が多いです。
特に、保育園に入れる場合には入園前によく話し合う必要があるでしょう。
その他、家族や知人などからも「大丈夫なの?」と心配されることもあるかもしれません。
デメリット③:BLWの本質を知る機会が少ない
BLWと聞くと「6ヶ月から固形食をあげる方法でしょ?」などと目立つ部分だけ知られている場合が少なくありません。
一般的な子育てに関する情報は手に入りやすいですが、BLWについては書籍が数冊とネットの情報のみ。
BLWに取り組みたいなら、最低でも以下の書籍は読んでおくことをオススメします。
可能であれば、BLW協会のセミナーに参加することが望ましいと思いますが、開催頻度は高くはないようです。
これまでの離乳食もBLWも、正しく離乳の方法を理解しないと、窒息リスクが高まってしまいます。
窒息が心配なら、従来の離乳食の進め方が無難です。従来の離乳食の方が現状では情報が手に入りやすいですし、相談相手も見つけやすいと思います。
BLWで離乳食を進める際によくある疑問



BLWで離乳食を進める際によくある疑問は以下のとおり。
- 窒息のリスクは?
- 必要な栄養はとれる?
それぞれについて解説します。
疑問①:窒息のリスクは?
日本で紹介されているBLW関連の書籍では「従来の離乳食の進め方とBLWでは窒息のリスクは変わらない」と紹介されています。
この根拠がFangupoらが報告した「A Baby-Led Approach to Eating Solids and Risk of Choking」という論文です。
たしかに、『BLWは従来の離乳法よりも窒息のリスクが高いとはいえないようだ』と結論付けていますが、この研究で実施されたBLWは当初Gill Rapleyが考案したものに改訂を加えたもの(BLISS)であることに注意が必要です。
BLISSはBLWの理論に沿いつつも「鉄分摂取の不足」「窒息」「成長障害」に関する懸念に対処したものとして開発されました(Daniels, 2015)。
保護者へは以下のように伝えられます。
- 食品を提供する前に、口の中で舌でつぶせるほど柔らかく調理されているか確かめる
- 提供する食品の長さは、子どものこぶしと同じくらいにする
- 食事中に背もたれに寄りかかるような姿勢は避ける
- 子どもが食事をしているときには、必ず大人が一緒にいる
- 子どもは自分のペースで食べる
ここで注目すべきは『舌でつぶせるほど柔らかく調理』というように子どもの口腔機能に合わせて調理を工夫している点です。
Fangupoらの論文を引用するのであれば、この点を強調すべきなのではないかと思っています。
疑問②:必要な栄養はとれる?
赤ちゃんのペースで、赤ちゃんが食べたいものを食べたい量だけ食べさせるBLWでは、必要な栄養がとれるのか心配になりますよね。
この疑問に関しては、以下の2つの研究が参考になります。
まず、Morisonら(2016)の研究では「エネルギー摂取量は差がないが、脂肪と飽和脂肪の摂取量が多く、鉄、亜鉛、ビタミンB12の摂取量が少ない」と結論づけています。
一方で、Boswell(2021)は「BLWは亜鉛や鉄の摂取不足のリスクを増加させないようだが、すべての乳児がこれらの栄養素を摂取できるように重点をおく必要がある」としています。
これらの結果をみる限り、この疑問に関する答えは出ていないようですが、赤ちゃんの頃に大切な栄養である『亜鉛・鉄』は意識的にメニューに入れるべきなのかもしれません。
まとめ:BLWは窒息リスクに気を付けて



この記事では、近年話題となっているBMLについて、僕なりに調べたことを紹介しました。
ここまでをまとめます。
- BLWは赤ちゃんが主導する離乳食の進め方
- 赤ちゃんが食べる料理・量・ペースを決める
- 自尊心を育むなどのメリットも多い
- 窒息リスクと栄養については注意も必要
- 安全を重視すべき!
こんな感じだと思いました。
赤ちゃんの自主性を大切にして、食事の環境を通して探索を促すことはとても素晴らしいと感じました。
しかし、現状では「固形物を6ヶ月から与える」「窒息リスクは低い」といった少し極端な認識が世間に広まっている感はいなめません。
僕が調べた限りでは、『赤ちゃんの食べる機能の発達に合わせた固さで不足しやすい栄養素を含めるように工夫した料理(離乳食)』を『手づかみ・自分のペースで食べる経験を積み重ねる』のがBLWなのかな?と思っています。
(もし、違ったらご指摘いただけると助かります)
手づかみ食べに関しては、以下の記事で『意義』を解説していますので、併せてお読みください。
》【重要】手づかみ食べの3つのメリット:手づかみ食べをしない子への対応は?


BLWだろうが、通常の離乳食だろうが、『窒息リスク』には十分に備えることが必要です。
万が一、窒息事故が起きた場合、すぐに助けてあげないといけません。
1秒でも早い方が命を助けられる可能性が高まります。この機会に、窒息対応については学んでみてください。
以下の動画が分かりやすいと思います。
》子どもの窒息対応(日本BLW協会)