
「療育の卒業っていつ?まだまだトレーニングしてほしいのに、卒業しないとダメなの?」
こういったテーマで記事を書いてみようと思います。
- 療育は卒業するものではないと思う
- ほど良い距離感で療育と付き合おう
- 支援の輪を広げていくようなイメージ
幼児期に受けていた療育。就学のタイミングで終了になるという人も多いのでは?
特に、療育センターなどでOTやSTなどの個別指導(リハビリ)受けている場合に多いかと。
本音をいえば「就学で終了なんてヒドイ!」「まだまだ支援を受けたい」と思う人も多いのではないでしょうか。
実際に、言語聴覚士として働いている僕も「就学後も同じ頻度で支援してください」と言われることが少なくないです。
このテーマについて、記事を書いてみました。賛否両論あると思いますが、今の僕なりの考えとして、なにかの参考になれば。
療育は卒業するものではないと思う



「療育を卒業する」ということばが、間違っていると思います。
本来、療育は卒業するものではない
厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン」では、療育を以下のように定義しています。
児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である。
児童発達支援ガイドライン:厚生労働省
このように、本来はある年齢になったら卒業するようなものではありません。必要な支援を、必要な時期に提供していくことが必要なわけですね。
それなのに、なぜ「療育を卒業」と言われることが多いのでしょうか?
「療育を卒業」と言われる理由
以下の2つがあると思っています。
- マンパワーの問題
- ライフステージの問題
順番に解説します。
全国的に、療育スタッフが不足しています。僕の職業である「言語聴覚士」も、全然足りていません。
ことばの発達に不安を感じる保護者はたくさんいるのに、相談支援が行える言語聴覚士が足りない
そのため、各地の療育センターでは「数か月待ち」が当たり前になっています。
そして、療育センターとしては、新規の相談を止めるわけにいかないので、どこかのタイミングで「卒業」という区切りを設定するわけです。
とにかく、マンパワーが足りていません。
幼児期には療育センターや児童発達支援くらいしか支援の場がない地域は多いと思います。地域によっては、ほぼ支援の場がないところも…。
でも、小学校に上がると「特別支援教育」の枠組みの中で支援の仕組みが用意されています。
≫参考:文部科学省:特別支援教育
幼児期に療育センターや児童発達支援で受けていた支援を、学校の特別支援教育に引き継いでいく
これが大切です。なので、いったんの区切りとして「卒業」ということばを使う。
でも、このように言うと聞こえはいいですが、実際は…十分に引き継げているケースって多くないのでは?
直接介入→間接介入へ
そもそも、卒業とは「過程を全て修了すること」をいいます。療育で目指すところと根本的に違いますよね。
言語聴覚士に関しては、幼児期は子どもに「直接」関わって発達支援する場合が多いと思います。でも、就学を期に直接介入は終了となってしまう。
でも、完全に終了してしまうのではなく、学校に上がったあとも困ったことがあればフォローで会ってくれたり、学校の先生と電話で連絡をとってくれたりする場合も多いです。
療育を卒業せずに、ほど良い距離感でつきあう方法



子どもの成長に合わせて、少しずつ支援の輪が広がっていくような社会がいいなと思います。
医療機関と、ほど良い距離感でつきあう
児童発達支援や放課後デイサービスなどは、基本的には年齢を区切りにサービスが終了する場合がほとんどです。
でも、医療機関に関しては、提供されるサービスは年齢によって差があるかもしれませんが、受診すれば相談にのってもらえる場合が多いのではないかと思います。
例えば、僕の職場は、療育を専門とするクリニックです。対外的には、一応18歳までと区切っていますが、わりとどの年齢の人も受診しています。
僕が言語聴覚士として関わるのは、主に幼児期のお子さん。小学校に上がった後は、基本的にはSTが定期的にお会いすることはなく、医師の診察を数か月おきに受けて頂く感じです。
そして、医師の診察を続ける中で、「これは言語聴覚士に相談した方が良い」とか「言語聴覚士の評価が必要だ」などと医師が判断した場合に、再度お会いします。
要するに、「医師の診察はいつでもウェルカム、リハビリや相談員などには必要に応じてつながります」って感じです。
誤解:トレーニングがないなら意味ない?
時々、「子どもに直接トレーニングしてもらえないなら通う意味がない」という人がいます。
でも、定期的に受診をしておくメリットもあります。
- 経過が記録(カルテ)に残る
- 必要な時に迅速に支援を受けられる
上記のメリットはあるかと。簡単に補足します。
順調に過ごしているときも、悩みやトラブルがあるときも、定期的に専門医に伝えておくと、時系列にカルテが残ります。
これが大切で、これから先に何か問題が起こったとします。その時に、順調に過ごしていたころの情報にはかなり価値があります。
※「なぜ、順調に過ごせていたのか」
この理由が分かれば、支援の道すじが立てやすいからです。なので、順調に過ごしても、時々は受診しておくことをオススメしています。
医療機関によっては、「2年以上受診がないと再初診として扱う」などのルールがある場合があります。
要するに、診察券を持っているにも関わらず、最初に受診した時のように「数か月待ち」を経ての受診になってしまうということ。
このあたりは、通っている療育機関にルールを聞いておけると良いと思います。
成長にともなって、医療機関からの書類(診断書や意見書)が必要になることがソコソコあります。必要な時に、すぐに支援を受けられるように、繋いでおきましょう。
デイリーユースとスペシャルトリートメント
医療、福祉、教育…、どの領域を主軸に支援を組み立てるのかを、それぞれのケースで自由に選べるのが理想ですが、現状では選択肢が少なすぎます。
そこで、「いつでも利用できるサービス」と「長いスパンで継続できるサービス」を分けて考えるのもひとつの方法かと思います。
例えば、以下のような感じ。
- デイリーユース:特別支援教室
- スペシャルトリートメント:年数回の療育センター受診
日々の相談や子どもへの介入は特別支援教室を主軸としつつ、療育センターでは何かトラブルがあった時などにグッと介入してもらうイメージ。
それぞれのケース、家庭で、どこをデイリーユースにするのか、スペシャルトリートメントはどこか、ということは変わると思います。
結論:距離感が大事
「学校に上がっても、ずっと療育センターで療育を続けてほしいです!」こうった要望をいただくことも多いです。
でも、ずーっと療育センターが主軸になっているデメリットもあると思っています。
子どもの生活範囲は、どんどん広がります。
家庭→保育園→学校→地域→就労…
それに合わせて、療育として関わる人たちも広がっていくことも大切です。ここで強調したいのが、「変わる」ではなく、「広がる」ということ。
幼児期で受けていた療育も必要であれば受けられるけど、似たようなことが学校でも受けられる。学校で受けていた支援と似たようなことが、地域の中でも受けられる。
子どもの成長に合わせて、少しずつ支援の輪が広がっていくような体制
そんな体制を作っていけたら良いのかな?と最近は考えています。
追伸:
ことばの発達に関する療育に興味がある人へ。
『ことばの発達:完全ガイド(はぐくみブログ)』では、幼児期のことばの発達については詳しく・分かりやすく解説しています。ぜひ、お読みください。