
子どもが負けるとワーワー泣いてしまう姿を見て心配している母親「うちの子、勝ち負けのあるようなゲームを穏やかにできないのよね。負けるとすぐに泣いてしまう。そんな姿を見ていると、友達とうまく遊べているのか心配だわ。おうちでも勝ち負けの練習をしてみたいけど、どうやったらいいんだろう?」
このような疑問に、以下のゲームを例に解説します。
お月さまバランスゲーム
- 勝ち負けのこだわりは発達の過程でよくあること
- 周囲の大人が持つべき3つの心構え
- ゲームのルールを子どもに合わせることが大切
- たくさん勝ちを経験すれば、負けの受け入れができる子もいる



僕は、言語聴覚士という資格で、発達に遅れや偏りのあるお子さんたちの言葉とコミュニケーションの指導を行っています。その中で得た経験・知識から、勝ち負けにこだわる子への対応を解説します。
勝ち負けにこだわっていて負けると大泣きしてしまう子どもを見ていると、「お友達とうまく遊べるかな?」などと心配になってしまいますよね。
実は、勝ち負けへのこだわりは発達に伴って軽減して、負けを受け入れられるようになる子も多いです。
なぜなら、このように勝ち負けにこだわってしまう時期って、程度の差はあれどの子にも発達の過程で経験するものだからです。
ただ、中には勝ち負けをスムーズに受け入れてゲームを楽しむことを学ぶのに少しコツが必要な子どももいます。
この記事では、勝ち負けにこだわりが強い子に対して周囲が持つべき3つの心構えを紹介して、実際にどのようにゲームを使って練習していけば良いのかを解説します。
記事を読み終えると、遊びの中での対応のポイントが理解でき、子どもに必要な関わりが見えてきます。
それでは、さっそくお読みください。
勝ち負けのこだわりに対して周囲がもつべき3つの心構え



心構え①:
子どものワガママだけではない
子どものワガママだけではない
負けて大泣きする姿には、①発達的な側面、②気質的な側面があることを理解しましょう。
発達的な側面としての『こだわり』
負けて大泣きする姿は『発達にともなって軽減する子が多い』です。
なぜなら、子どもが負けて大泣きしてしまう姿は、成長の過程で程度の差はあれど、だれもが経験する発達的な側面でもあるからです。
実際に、4~5歳くらいのお子さんでは、ゲームに負けるとこの世の終わりかというほど大泣きしてしまうことが多く、保育園や幼稚園ではその対応に先生たちは追われています。
でも、年長さん(就学前年)になる頃には、多くの子どもたちで『負けちゃったけど、楽しかったな』といった具合に勝ち負けを通してゲーム自体を楽しめるようになってきます。
「勝ちたい」「負けたくない」といった気持ち。これは、ただのワガママで言っているわけではないということを周囲の大人が理解してあげることが大切です。
なぜなら、子どもたちには、「白か黒か」「0か1か」みたいな思考に陥りやすい発達の段階があるからです。
この時期には、「勝ちか負けか」のような2極論におちいってしまっていて「負けちゃったけど楽しかったな」などの中間の部分が欠落してしまっているのかもしれません。
しかし、成長とともにこのような「白か黒か」のような思考の間に「グレー」な部分が入ってくるようになります。
子どもたちの中には、「白か黒か」という思考の中に、「グレー」な部分を考えるのが特に苦手なお子さんたちもいます。
そのようなお子さんたちには、段階を踏んで丁寧に発達を積み上げられるように配慮・工夫してあげる必要が出てきます。
具体的な工夫の仕方については、以下で解説していきます。
また、もともと産まれつき勝気なお子さんたちもいます。産まれ持った気質としても理解してあげると良いかもしれません。
もしかしたら、小さい頃のお父さん・お母さんに似ているかも?
このような勝気な気質は、場面によっては人生でプラスに働く部分だってあります。あなたの周囲にも勝気な性格のおかげで多くの成功をおさめている方がひとりやふたりいるのではないでしょうか。
勝ち負けへのこだわりについては、発達的な側面と気質としての側面の両方があることをまずは理解してあげてほしいと思います。
心構え②:
日ごろから結果だけではなく過程に注目する
日ごろから結果だけではなく過程に注目する
ゲームに限らず、子どもの取り組みの過程に注目して、褒めてあげるような関わりを意識してあげましょう。
その理由は、僕ら大人はどうしても「上手にできたね!」などと取り組みの結果に注目を与えがちになってしまいやすいからです。子どもも『勝ち負け』といったゲームの結果のみにこだわってしまっている部分もあるかも。\
常日頃から、地道にコツコツと子ども伝えてあげることで、「物事は結果だけじゃない」「楽しかった過程、頑張った過程も大切なんだ」ということを理解してもらえます。
ぜひ、毎日の生活の中で、結果だけではなく、お子さんが取り組んだ過程に注目して褒めてあげてください。
もし、あなたが何かの仕事を成し遂げた時に、「素晴らしい出来だよ。ありがとう。」と言われるのと「頑張ってやっていたもんね。お疲れ様。」と言われるのと、どちらがうれしいでしょうか?
とらえ方は人それぞれかと思いますが、後者のように過程を認めてもらえた方が自分自身に注目をして褒めてもらえた感じがしませんか?
お子さんにも、たとえば、なわとびが飛べた時に「すごい!頑張って練習してたもんね」などと過程に注目した声掛けをしてあげてほしいと思います。
心構え③:
大人の負けや失敗を見せる
大人の負けや失敗を見せる
お子さんによっては、負けた時にどうふるまえば良いのか、負けて悔しい気持ちをどうやって発散したらいいのかが分からずに、泣いたり・怒ったりといった形で表現している子もいるかもしれません。
そのような場合には、お子さんのモデルに親がなってあげましょう。
生活の中で親のちょっとした失敗を子どもに見せてあげるところから始めても良いと思います。
また、一緒にゲームをして親が負けた時に、少し大げさに悔しがった後に「もう一回やろう!」と気持ちを切り替える姿を見せてあげるのも良いと思います。
信頼できる大人がどのように気持ちをコントロールしているのかを見る経験は、お子さんの中にモデルを作り上げます。
子どもの発達の状態に合わせてゲームのルールを調整しよう



お月さまバランスゲームの対象年齢は3歳~となっています。
① じゃんけんで順番を決める
② 勝った人がサイコロをふって出た目の色と同じ色の積み木を三日月の上にそーっと乗せる
③ 次の人がサイコロをふり、同様に積み木を乗せる
④ 乗せた積木が落ちてしまった人が負け
ゲームで遊ぶにあたり、お子さんの気になる行動がある場合には、大人が通常のルールにこだわりすぎずに、柔軟にルールを変更してお子さんの発達の状態に合わせてあげるとうまくいくことが多いです。
以下はお月さまバランスゲームを例に、こどもの発達レベルに合わせたルール設定を解説します。
ルール設定を調整することで、様々な発達段階のお子さんで遊ぶことができます。



お子さんの発達に合わせたルールにしてあげながら、勝ち負けを少しずつ経験させてみましょう。以下に具体的な対応をお示しします。
子どもの発達の状態別の対応例



まだまだ一人で遊びたい!!って子
ゲームをやりはじめると、積木を独り占めしたり、他の人が乗せた積木をとってしまったり・・・。
まだ、順番を守ってゲームに取り組むには手助けが必要なお子さんの場合、思い切って一人で遊ばせてあげるのも良いと思います。
まずは、このおもちゃに慣れることも大切です。
もし、「何個乗せられるかな?」といった声かけが伝わるようなら、「ひとりでできるだけたくさん積木をのせる」といったルールに変更してみましょう。
この時に、積木を1つずつ手渡すなど、遊びの中にさりげなく大人が入ってあげるのが大切です。
「ひとり遊び」の段階から、「一緒の場所で遊ぶことが楽しい(並行遊び)」への橋渡しをしてあげられると良いでしょう。
順番を守ることが難しい子
順番を守れるようになるためには、相手がやっているところをちゃんと見ている必要もありますし、「待つ」というスキルが重要になります。
この「待つ」ことが難しいお子さんの場合には、いきなり4~5人で順番をまわすようなことはせず、子どもと大人の2人で取り組むことから始めてみましょう。
そして、最初は、大人の番はサクッと時間をかけずに回してあげて、すぐに子ども番が来るようにしてあげてください。
そのためには、サイコロを転がすルールはいったんやめにして、「自分の番に好きな積木を乗せる」とした方が早く順番を回してあげられるかもしれません。
少しずつ、大人が「どこにのせようかな~」「こわいなぁ」など言いながら、自分の番に時間をかけて子どもの「待つ」時間を伸ばしてみましょう。
負けると大泣き!!な子
「負けることもあるんだから、負けに慣れさせよう」と、何度も負けを経験させ、そのたびに子どもが大泣きしている場合もありますよね。
色々な考え方がありますので、特定の考え方を否定するものではありませんが、僕だったこうするな、ということを以下にご紹介します。



ひとつの参考として頂けたら嬉しいです
負けて大泣きしてしまう子って、とっても勝気で素晴らしい性格だと思うんですよね。
私なんて、すぐに「まぁ、いいか」と思ってしまう楽観主義なので・・・。
なので、そこまで周りの大人がこの「負け泣き」を矯正する必要はなく、むしろその子の強みにもなっていく力なのではないでしょうか。
このような気持ちが僕の考えのベースにあります。
そして、多くの子で特別なことをしなくても、ちゃんと見守ってあげれば、それなりに勝ち負けを受け入れ、ゲームを楽しめるようになっていく姿もよく経験します。
お子さんたちの中には日常で負けることが多すぎて、人一倍くやしい想いをしているがゆえに、勝ち負けに非常にこだわってしまう子もいるような気がします。
そのような子には、大人が相手をしてあげて、程よく「勝つかも?負けるかも?」といったドキドキを感じさせながら勝たせてあげます。
何度も何度も勝っているうちに、偶然負けてしまった時は受け入れられたりすることも。誰だって(大人だって)そうですが、自信がつけば、多少の失敗は認められるようになるものです。
負けがどうしても受け入れきれない時期のお子さんでしたら、勝ち負けのないルールへの変更を提案してみても良いかもしれません。
たとえば、「ふたりで順番に乗せて、協力してできるだけたくさん乗せよう」としてみるとか。もしくは、「大人が積木を部屋のどこかに隠し、子どもが見つけてお月さまにのせる」とか。
そうやって楽しく遊んだ経験が、余裕をうんでくれることもあるように思います。
時には、「突然」が嫌いな子もいます。
まさか自分が乗せた時に倒れるとは思わなくてビックリしてしまうようです。
また、倒れてビックリした気持ちをどう発散していいのか分からなくなってしまう子もいます。
ゲームを始める前に、もし積木が落ちてしまった時はどうしたらいいのかを事前に確認しておけると安心する子もいます。
「もし落としてしまったら、どうしたらいいかな?」「だれに、なんて言ったらいいかな」とかなり具体的なところまで確認してあげたほうが良いお子さんもいるようです。
まとめ



ここまでをまとめます。
- 勝ち負けのこだわりは発達的な側面と気質的な側面がある
- 日ごろから子どもの取り組みの過程に注目することが大切
- 負けた時にどうするのかといった大人のモデルを示すことも大切
- 子どもが受け入れられるルールで『ゲーム自体を楽しむ』
子どもたちが勝ち負けを受け入れて、ゲームを楽しめるようになるための発達を支えてあげましょう。そのために、ある程度は大人側でゲームのルールをコントロールしてあげるとうまくいく場合が多いです。
分かりやすいルールで、子どもの発達の状態にルールを柔軟に変更できるような、ある程度の自由度のあるおもちゃを使うことがオススメです。
親子ともに楽しい時間を過ごすことが、なによりも大切だったりします。無理なく、焦りすぎず、お子さんの成長を見守りましょう。