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【レビュー】「発達科学から読み解く親と子の心」から学んだこと

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発達科学から読み解く親と子の心―身体・脳・環境から探る親子の関わり―(著:田中友香理)を読みました。

僕は言語聴覚士という職業で、主に発達障害などをもつお子さんたちの言葉・コミュニケーションを支える仕事をしています。

そんな僕が、この本から学んだこと・感じたことをレビューします。

内容紹介

「子どもの心はどのように育つのか?」、また「子育てを通して親の心はどのように育つのか?」――「身体」「脳」「環境」をキーワードに、赤ちゃんや親子を対象とした発達科学研究から解き明かすアカデミック・エッセイ。

「子育て環境と心と脳の発達の関係」「親子の身体接触が心と脳に与える影響」「親としての心と脳の発達と親への支援」「日々進化する社会環境における心と脳の発達」など、現在子育て真っ只中の発達科学者が贈る、親と子の心の発達をめぐる最前線!

ミネルヴァ書房HPより

著者:田中友香理 先生について

田中友香理先生は関西大学の心理学研究科で特別研究員(RPD)としてご活躍です。

本書は田中先生が京都大学の大学院生の時から取り組んでこられた研究の知見をまとめたものとのことです。

田中先生は発達科学の中で影響力のある海外の専門誌へ論文を掲載されており、社会的認知・相互作用に関して、今注目の研究者です。

言語聴覚士として、様々な親子に関わる僕にとって、非常に勉強になる書籍でしたのでご紹介します。

「発達科学から読み解く親と子の心」レビュー

「発達科学から読み解く親と子の心―身体・脳・環境から探る親子の関わり―」は以下の章立てで構成されています。

国内外の研究結果をふんだんにレビューしながら解説されており、内容の濃い一冊になっていました。

  • 序 章 親と子の関わりを科学する
  • 第1章 親と子の心を知るには
  • 第2章 親としての心と脳の発達
  • 第3章 子どもの育ちと脳の発達
  • 第4章 身体を通して育ちあう親子の脳と心
  • 第5章 進化する社会環境と子どもの心の発達

さっそく、各章別に学んだことや感想を書いていきます。

序章 親と子の関わりを科学する

本章では、親子双方の心のはたらきについての理解を深めることの意義について述べられています。

「赤ちゃんや子どもの一つひとつの行動の意味について理解できるようになると、子育てに対してもっていた漠然とした不安のいくばくかは軽減されるかもしれません。(p.10より引用)」

僕も言語聴覚士という立場から、「ことばの発達についての専門知識をできるだけ簡単に、日常の子育ての中で活かしやすい情報として伝えていきたい」という想いから、はぐくみブログやTwitter(@hagukumichild)での情報発信を始めたところでしたので、上記のことばにとても共感しました。

以下は本章の見出しです。

  1. 親も育つ、子も育つ
  2. 「心」を科学的に理解する
  3. 本書の構成

第1章 親と子の心を知るには

本書の目的である「親と子の心を知る」ための前提として、以下の目次で示されているようなことが解説されています。

  1. 「心」とは
  2. 「遺伝」と「環境」が心の多様性を生み出す
  3. 心の発達に対する「脳」と「身体」
  4. 心と脳の関係
  5. 脳と身体の関係
  6. 心を知る方法

脳や神経の話題も分かりやすく表現されていましたが、基礎知識のない方には少し難しく感じられるかもしれません。

近年の発達科学の中で「心」の測定方法については、脳機能に関する話題は避けてとおれません。

ただし、この章の内容を完璧に理解しなくても、第2章以降の話は概ね理解できるように分かりやすく解説されています。

そのため、一般の方は「へぇ~、脳ってそういう構造・働きをしているんだ」「こうやって赤ちゃんの脳機能を測定するんだ」くらいの認識で読み進めてOKかと思います。

第2章 親としての心と脳の発達

これまでの発達科学では「子ども」に注目した研究結果が多かったですが、本書では「親と子」の相互作用を読み解こうとしている点が最大の魅力かと思います。

それを強調するように、子どもに関する話題よりも先に「親」の心と脳の発達の解説から開始されています。

第2章の見出しは以下のとおりです。

  1. ヒトらしい子育て
  2. 共同養育の崩壊
  3. 親としての脳のはたらき
  4. 経験が親の脳の発達を促す
  5. 親の脳の発達リスク
  6. 養育環境は子どもの心と脳に影響する
  7. 身体と脳から探る親への支援
  8. 父親の脳の発達と親性教育

この章の中で、子育ての経験の蓄積が親の脳活動のパターンを変化させる可能性を示した著者の田中先生の研究結果が紹介されていました(Tanaka et al., 2014)。

子どもが産まれた瞬間から親としての生活が始まるわけですが、子育ての経験が親の脳を発達させるというのは興味深い内容でした。

また、親が幼少期に自分の親との間で築いたアタッチメントや、親の産後うつの経験によって、子どもと関わる際の脳活動のパターンが異なることが数々の研究から分かってきており、親としての脳の発達を阻害する可能性についても述べられていました。

さらに、僕自身が子どもを育てる父親ということもあり、「父親の脳の発達と親性教育」のパートは特に興味深く読み進めました。

男性もパートナーの妊娠を期に養育行動を促進する機能をもつテストステロンというホルモンに変化がみられるとする研究結果があるそうです。

ただし、このテストステロンの変化にはかなり個人差が大きく、変化がない人や出産直前に上がる人など複数のパターンがみられていたそうで、僕自身はどんなテストステロンの変化があったのか気になりました。

第3章 子どもの育ちと脳の発達

この章では、親からお世話される側である「子ども」の脳と心の育ちについて解説されています。

第3章の見出しは以下のとおりです。

  1. 発達初期のヒトの脳の発達
  2. 遺伝と環境は相互に関わり合う
  3. 赤ちゃんはヒトらしいものが好き
  4. 赤ちゃんと大人の関わり方
  5. 他者との関わりが赤ちゃんの脳に与える影響
  6. 環境に敏感な時期を理解して子どもと関わる

産まれたばかりの赤ちゃんでも、「ヒトの顔」「生き物らしい動き」などのヒトらしい刺激を好むことが紹介されていました。

個人的には、この章で紹介されていた「大人と赤ちゃんの遊びのマルチモーダル性」というのに興味がひかれました。マルチモーダルとは、視覚や聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの複数の感覚刺激を含むという意味のようです。

大人と赤ちゃんが遊ぶときには、複数の感覚を共有しながら関わることが少なくありません。このようなマルチモーダルな関わりは、赤ちゃんの学習を促進する機能があるとする研究結果も紹介されています。

マルチモーダルの話題の中で、著者の田中先生の研究も紹介されていました(Tanaka et al., 2018)。

この研究では、赤ちゃんに触れながら単語を聞かせる条件と、触れずに単語を聞かせる条件で大人が関わり、実験後にそれぞれの単語を再度聞いた際の脳活動を調べたそうです。結果は、触れながら単語を聞かせた条件は触れないで単語を聞かせた条件よりも脳活動が高くなっていました。

個人的には、重症心身障害児者の方や摂食指導で関わるダウン症の赤ちゃんなどと関わる際に、ただ物を見せる・話しかけるといった関わりをするよりも、マルチモーダルな刺激入力を意識した関わりが、お子さんの脳を育てる可能性があることを知れたのは良かったです。

その他にも、この章では発達年齢が1歳未満のお子さんとの関わりを考える上でのヒントとなる研究結果が盛りだくさんに紹介されていました。

第4章 身体を通して育ちあう親子の脳と心

この章では、前の章で解説された「身体接触」について、さらに深堀りして解説されています。

第4章の見出しは以下のとおりです。

  1. 子育てにおける身体接触
  2. 「触れる」「触れられる」感覚
  3. 身体接触とストレスの関係
  4. 触れられる経験が赤ちゃんの行動に与える影響
  5. コミュニケーションを支え学習を促す身体接触
  6. 身体接触と親子関係
  7. 身体接触とアタッチメント

「乳児期の親子間の身体接触には、①子ども側のストレスを緩和し、探索行動を促進する、②コミュニケーションにおける意図や感情を伝達する、③他者との感情的な絆を調整する、という三つの機能がある(p.163より引用)。」

上記のように、身体接触がその後の学習やコミュニケーション、社会性の育ちに少なからず影響を与えることを様々な研究結果を交えながら解説されていました。

言語聴覚士はお子さんと机を挟んで対面した関わりを持つことが多いかと思いますが、お子さんが小さいほど、机をはさまずに、実際にお子さんを抱っこするなど「触れる」関わりを大切にしないといけないなと思い直しました。

第5章 進化する社会環境と子どもの心の発達

この章では、スマートフォンなどのデジタルメディアの普及に伴う子育て環境の変化やロボット開発の話題など、これからむかえる新時代の環境と子育てについて解説されています。

第5章の見出しは以下のとおりです。

  1. 子育て環境の変化と子どもの心
  2. デジタルメディアと子どもの育ち
  3. ロボットが子育てをする時代がくるのか
  4. 新しい社会の到来
  5. 育児への喜びを高めるためのモノやサービスの開発
  6. 現実とバーチャルが交錯する時代
  7. 親子の脳と心は身体を介して共に育つ

この章の中で、発達科学が与えた知見を活かすことで、子育てへのポジティブな動機を高める工夫も解説されていました。

例えば、赤ちゃんが排泄をすると「ありがとう」や「だいすき」といったポジティブな感情をあらわすことばが浮かびあがってくるオムツが紹介されていました。

これにより、養育者の育児自己効力感を高め、親子の関わりをより良いものへとつなげていくことを目的としています。

今後は、このような発達科学・発達心理学の科学的な知見に基づいた、子育て応援グッズも増えてくるのかもしれません。研究機関と企業のタイアップには今後も注目していきたいと思いました。

最後に、「子育てを担う親御さんだけでなく、育児に関わるすべての大人や、これから育児を担う若い世代の人たちも含めて、より多くの人々がヒトの心の発達を理解することこそが、今の子育ての環境を見直し、それらをよりよく変えていくための第一歩になるのです。(p.203より引用)」と本書を締めくくっています。

この一文にとても共感を覚え、僕のライフワークの中でも大切にしていきたいと思いました。

まとめ:「発達科学から読み解く親と子の心」の書評・感想

本記事では、田中友香理先生の「発達科学から読み解く親と子の心―身体・脳・環境から探る親子の関わり―」について書きました。

この書籍は、子どもの発達を支援する立場の人にはもちろん、子どもに関わるすべての人の目に触れてほしい本だと感じました。

国内外の研究結果などが多数に紹介されており、客観性・信頼性の高い内容になっています。

その分、内容が少し専門的ですが、分かりやすい例を用いて説明されていたり、図や写真でイメージしやすいように工夫されているため、基礎知識がない方でも読み進めることができるのではないかと思います。

読んだ後、少し優しい気持ちになれ、子どもとスキンシップをとって遊んであげたくなるような本でした。

親子の心について発達科学・発達心理学の立場から網羅的に解説された本として、2,400円+税という価格は安いと思います(変なセミナーに参加されるくらいなら、この本を熟読されることをオススメします)。

本当にこの本に出会えてよかったと思いますし、本で紹介されていた論文も少しずつ取り寄せながら知識を深めていきたいと思えました。