
発達障害と診断された子の療育を考える母親「感覚統合って聞いたことがあるけど、よく分からないな。子どもを見ていると、いやな感覚があったり、敏感な感覚があったりする。これをどう考えてあげたら良いのかを知りたい。実際の療育の例なども教えてもらえたらうれしいな。」
こういった疑問におこたえします。



私は言語聴覚士という資格で発達障害や言語発達遅滞(ことばの遅れ)と診断されたお子さんたちの支援・療育を行っています。その経験と知識から、感覚統合について、以下に解説します。
それでは、さっそくはじめましょう。
感覚統合とは?



感覚統合とは、脳と行動の関連を示す理論のことをいいます。
感覚統合理論では、日常生活上の様々な感覚情報を整理してまとめて脳で処理する機能を育てます。
私たちは、何をするにも外から感覚の情報(五感)を受けとって、その感覚の情報を脳に送り、脳で処理します。
たとえば、この記事を読んでいる最中に子どもに呼ばれたら(聴覚情報の入力)、子どもの声のする方向を認識して(聴覚定位)、首を回してそちらを向き(頚部の運動・姿勢の調整)、何かしら子ども伝える(言語)などするかと思います。
たったこれだけでも、様々な情報を私たちの脳では処理しており、これらの情報をうまく整理してまとめあげようとするのが感覚統合理論です。
発達障害児への感覚統合理論の3つの原則



感覚統合の原則①:「感覚は脳の栄養である」
私たちの脳は周囲からある程度の感覚情報が入力されていることで正常に働きます。
いっさいの感覚を断ち切ってしまうと、健康な人でも幻覚が生じてしまうことが知られています。
適切な種類の刺激を、適切な量うけとることが私たちの脳には必要ということになります。
感覚統合の原則②:「感覚入力には交通整理が必要である」
感覚は脳の栄養だからといって、むやみやたらに情報を入れればよいというわけではありません。
私たちは、周囲の感覚情報の中から必要な情報は抜き出して、不要な情報には注意を向けないように整理しています。
たとえば、今この記事を読んでいる時に、お洋服の素材や腕時計の締め付けが気になって文章を読めないという方は少ないかと思います。
このような感覚情報の交通整理をすることは、感覚統合理論の本質的な部分でもあります。
感覚統合の原則③:「感覚統合はピラミッドのように発達する」
下の図のように、感覚統合で土台として考えられているのは聴覚・前庭覚・固有受容覚・触覚・視覚といった基礎的な感覚です。
これらの感覚を土台の上に、姿勢やバランス、ボディ・イメージや情緒、言語や視覚といった積み木を子どもたち自身で積み上げていくイメージです。
たとえば、あかちゃんの頃には、一番下の基礎的な感覚を使った活動が多く、それより上の活動の比重は少ないです。
成長するにしたがって、基礎的な感覚を調整しつつ、姿勢やバランスを保ち、運動や言語といったより高次な活動に取り組めるようになってきます。



感覚統合理論の柱:感覚と行為・調整の関係
聴覚はことばを使って相手とコミュニケーションをとったり、物音から状況を判断したりするときに重要な役割をはたします。
聴覚情報は、耳から入って脳に送られ、他の感覚と一緒に処理されることで、生活の中で役立てています。
たとえば、何か物音がすると音がした方に向く(定位)という行動をする時には、運動と聴覚が結びついています。
また、誰かと会話をする時には周囲の雑音から相手の声を区別して(図-地判別)、相手の声を効率的に聞き取ります。この時に、聞きたい情報の方を見ることで、聴覚情報がより鮮明に聞こえてきます。
前庭覚というと聞きなれないことばかと思いますが、平衡感覚(バランス)、重力などを認識する感覚です。
前庭覚は耳の奥にある内耳と呼ばれるところにある前庭という場所で生じます。
子どもであれば、でんぐり返しのように回った時の「グルン」という感覚、たかいたかいをした時の「ふわっ」と体が浮くような感覚といえば分かりやすいでしょうか。
前庭覚は他の感覚との連絡をたくさん持っており、何かの活動を行う時の基礎的な力として働きます。
姿勢を保つためにも、頭の位置がどうなっているか、倒れないようにどこに力を入れるとよいかなどを察知するために前庭覚は使用されます。
固有受容覚も聞きなれないことばかと思いますが、筋肉に「ギュッ」と力を入れた時に生じる感覚や、関節を曲げ伸ばししたときに生じる感覚のことを言います。
視覚や聴覚、触覚などは外からの刺激を受けとる感覚であるのに対して、固有受容覚は自分の体の中からの情報を脳に伝えます。
たとえば、荷物をもつときに、どのくらいの力で持てばよいのかといった情報であったり、どのくらい手を伸ばせば荷物に届くかといった情報に関する感覚です。
そのため、他の感覚と協調させながら、ボディ・イメージや運動の組立ての際に重要となる感覚となります。
触覚には以下のように探索行動につながるものと、危険回避につながるものがあります。
これらの両方がバランスよく働くことが大切です。
触覚は、ものに触れることでそれがどのようなものであるのかを認識するための重要な感覚です。
あかちゃんの発達にも重要な役割をはたしており、産まれてまもない頃から哺乳をするために口の周囲に触覚刺激が加わるとそちらの方に口を開けて向く探索反射がみられます。
そして、もう少し大きくなると周囲にあるものをなんでも口に持って行って感触を確かめる時期があります。
さらにおすわりが安定してくると、手が自由に使えるようにもなるので、色々なものを触って、操作して、物の手触りや形などを確かめます。
触覚は身体への危険を察知する際にも重要な働きをしてくれます。
たとえば、なにか腕にムズムズとした感覚があった場合に、虫がいるのではないかと目で見て確認する前に振り払ってしまうことはないですか?
また、ドアに手を挟んだ時などに痛覚を感じるとすぐに手を引っ込めてダメージを最小限に抑えようとします。
視覚もまた、他の感覚と協調・統合されながら生活の中で役立っています。
物を見る時には目を動かす筋肉を動かします。この筋肉を動かすときに固有受容覚が利用されます。
また、動く物を見るときに後ろに振り向いたりする際に、振り向いたことで姿勢が崩れないように体中の筋肉を調整する必要もあります。
さらに、私たちは見た情報と触った情報を統合して概念として理解しているものも多いです。
たとえば、動物に触れる前に、動物を見て「フワフワしていそうだな」と認識したうえで(視覚)、実際に触ってみたら「意外とゴワゴワしているな」と再認識したとします(触覚)。
その経験が知識として積みあがることで、次に見た時には、前に触った感触を思い出して、動物に触れる前から「ゴワゴワしているんだよな」と思えるようになります。
感覚統合に苦手さがある発達障害児の例



特定の感覚に苦手さをかかえている場合もありますが、複数の感覚にわたって苦手さがある場合も多いです。
また、同じ感覚の中でも過敏な部分と鈍感な部分が混在しているお子さんもいます。
それぞれのお子さんの特徴を把握するために、感覚ごとに苦手さとして表れやすい行動の例を一部ご紹介します。
・特定の音に非常に敏感な反応をする
・突然の大きな音を非常に怖がる
・人ごみやうるさい場所を嫌がる
・音や声がする方向が分からなかったり混乱したりする
・転びやすい
・高いところを怖がることが多い、または、高いところが大好き
・車に酔いやすい、または、回転するものに乗っても目が回らない
・床にごろごろ寝転んでいる、または、動きが激しく活発
・動きがぎこちない
・自分を中心として上下・前後・左右などが年齢水準よりも理解に苦労している
・全身の協調運動を必要とする遊びが苦手(ブランコ、スキップ、縄跳びなど)
・力加減の調節が苦手
・ギューッと締め付けられることを好んだり、狭いところに入って小さく丸まることが多い
・触れられることに非常に敏感、または、鈍感である
・過度にくすぐったがりである
・特定の感触の衣類を着たがらない
・砂遊び、粘度遊び、糊などをいやがる
・痛みに鈍感である
・べたべたと絶えずいろいろなものに触りたがる
・視覚刺激のために非常に気が散りやすい
・まぶしがることが多い
・スーパーなどの情報が多い環境に行くと落ち着かなくなる
・物をよく見ない、色や形の識別が苦手
・動いているものを目で追うことが苦手
発達障害児の感覚統合を育てる遊び



この記事をお読みの方は、「ことばの発達」に興味が高い方が多いかもしれません。
先ほどのピラミッドの図のように、下から丁寧に積み上げることで、「言語」もその上に積みあがります。
仮に、土台の積み上げがガタガタな状態だと、以下のようになんとか積み上げることができるかもしれませんが、いつ崩れてもおかしくないような危ういピラミッドになってしまいます。



そのため、本記事では、下の層である感覚面を育てる遊びを紹介します。
感覚統合あそびの王道:トランポリン



感覚統合といえば、トランポリンといったイメージがある方も多いのではないでしょうか?
トランポリンもお子さんの発達の状態に合わせながら、段階的に感覚統合を積み上げていきましょう。
最初はトランポリンに飛ぶのを怖がる子もいるかもしれません。揺れる感覚(前庭覚)が怖いのかもしれないですし、体にギュッと体重がのる感覚(固有受容覚)が嫌なのかもしれません。
そういった場合にはトランポリンの上に乗って、ただ座るところから始めてみましょう。
座ることに慣れてきたら、お子さんがのっている時に大人が少しトランポリンを揺らすなどして、上下の揺れの刺激を入れていきましょう。
決して無理矢理にやるのではなく、お子さんが楽しんで受け入れられる強度で行ってください。
「こわい!」「いやだ!!」といった気持ちが先行してしまうと、感覚はうまく統合されなくなってしまいます。
トランポリンで飛べるようになると、前庭覚や固有受容覚が統合・調整されてうまく受け入れられるようになったと考えます。
トランポリンを飛んで楽しめるようになってきたら、他の感覚刺激を加えていきながら、さらに感覚の統合を促してきましょう。
- トランポリンに飛んでいる時に、何かのイラストをパッと見せてその名前を言ってもらいましょう。飛んでいる最中は頭の位置が上下に動いているので、イラストを見るためには眼球をうまくコントロールする必要があります。
- 慣れてきたら、トランポリンを飛びながら、ボールをキャッチするような遊びに発展させても良いと思います。
- トランポリンに飛んでいる時に、お子さんから見えないように何かの音を出したり、動物の鳴き声の真似をしたりして、何の音かを当ててもらいましょう。
触覚が過敏な発達障害をもつお子さんの療育の例



触れられることに非常に敏感で過度にくすぐったがり屋さん。
衣類のタグの部分が気になって着れないため、すべてのお洋服のタグは切り取って対応されていました。
急に体に触れられることが嫌で、友達が近づいてくると逃げてしまいます。ことばに関しては、身の回りの物の名前はよく知っていましたが、その概念があいまいでした。
例えば、「ふとん」という語いは知っていても、「ふかふか」「寝る時につかう」などの概念的な理解につながりにくいところがありました。
触覚刺激に対して、危険回避の防衛反応が強く出ているようでした。
そのため、触覚刺激に対して探索する機能を強化することで、受け入れられる触覚刺激を増やし、ことばの概念を広げていけないかと考えました。
①まず、色々な物品(おもちゃ)を用意して見ながら触って確認してもらいました。
②その後に、同じ物品を中身が透けて見えない袋の中にいれて、お子さんは手を袋の中に入れて手探りで指定された物品を取り出すゲームを行いました。
③指定された物品が取り出せた時には、その物品の触り心地を言語化して確認しました。
まとめ:発達障害児への感覚統合



感覚統合について解説してきました。
私たちは様々な感覚を環境から受け取りながら生活しています。
しかし、お子さんによっては、この感覚の受け取りに偏りや苦手さがある場合があります。
まずはその事実を周囲の大人が理解してあげてほしいと思います。
子どもたちの「過ごしやすさ」「学びやすさ」を考えるうえで、「感覚」というキーワードを加えていただけると幸いです。
もっと詳しく知りたい方へ:
おすすめのトランポリン:
その他の家で遊べる遊具:
・ハンモック:揺れる「前庭覚」を刺激した遊びが楽しめます。
いつも有益な記事をUPしてくださり感謝します。
感覚統合については、保護者向きの講座などでなんとなく知ってはいましたが、ここまで具体的に簡潔に整理されたものは初めて読みました。
特に2種類のピラミッドの図は、大きく頷きながら拝見しました。
ほとんどの親は、一つひとつの力に焦点が行き、そこを発達向上させようとします。でも、各々の力が安定して積み上がらないと効果を発揮しないという指摘は、目から鱗でした。
知っているお子さんの様子を浮かべて読んでいる自分がいました。
知的に最重度ですが、熱心な親のもとで、小さな頃から療育を積み重ねてきました。けれど、一つひとつの能力がバラバラで、提示されたパターンは身についても、次に繋がっていきません。精度を高めていけません。パターンを覚えたらおしまいです。たくさんのことができるのに、ステップアップしていかないもどかしさを感じます。
ひょっとしたら、ピラミッドの積み上げが不安定なために、身についた力を発揮できないのではないかと直感しました。
あくまで想像ですが…
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感覚統合記事:https://hagukumi-net.com/development/1579/
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つい、SNSで手早く情報を仕入れてわかった気になってしまいます。反省です😅
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