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自閉スペクトラム症(ASD)は「目が合わない」は本当か?:原因・特徴・対応を解説

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自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんを支援している人「ASDと診断されているお子さんだけど、視線は合うし、そんなに私のことを避けている感じもしないな。もしかしたら、診断が違うのかな?そうだとしたら、ASDに有効といわれているような支援も必要ないのかもしれない。」

自閉症スペクトラム症(以下、ASDと略します)と診断されているお子さんでも、視線が合うお子さんはたくさんいます

また、ASDを持つお子さんは「人のことを避ける特徴がある」と思っている方!

大きな誤解です。

僕はASDと診断されたお子さんと何人も関わってきました。

彼ら(彼女ら)も信頼できる相手であれば大好きになってくれます。

そして、ASDでは「自分の殻に閉じこもっている」「人との関わりを避ける」など昔々の昔話では言われていましたが、現在は真っ向から否定されており、これらを否定するのに十分な研究結果も出揃っています

では、それでもなお、ASDのお子さんは「目が合わない」と言われ続けるのでしょうか?

最近の研究結果も含めて、相手の視線認知や共同注意といった観点から解説します。

この記事を読むことで、ASD児がどこに苦手さがあり、どのように支援してあげたら良いのかのヒントが得られます。

ぜひ、最後まで読んでいただき、今すぐにASD児のお子さんへの理解を深めてあげてください。

ASD児の共同注意や視線認知の特徴を解説

共同注意

共同注意とは、自分と相手との間で対象となる物や出来事への注意を共有することをいいいます。

典型的な例としては、母親がおもちゃを指さし、赤ちゃんが指さしを見てからその先にある玩具を見る、といった感じで日常の中では確認されます。

定型発達児では、ことばや行動を柔軟に用いて、生活の中で共同注意をかんり頻繁に確率させます。

この共同注意は、以下の2つの種類に分けて検討されることがあります。

  • RJA:responding to joint attention(親が開始する共同注意)
  • IJA:initiation of joint attention(子どもが開始する共同注意)

RJAとIJAはどちらも周囲の人から得られる情報を認知するスキル(Brooks et al., 2015)や、ことばの発達(Baldwin, 1991)を促進するといわれています。

ASD児では、これらのうち、IJAが育ちにくい可能性が指摘されています(Nyström et al., 2019)。

要するに、自分から相手の興味のあるものを共有しようとする頻度がすくないようです。

視線認知

定型発達児では、共同注意を効果的に成立させるために、指さしや声かけで相手へ直接うったえかける前に、相手の顔と自分の注意を引いている物との間で視線を交互に動かすことで相手の注意を自分に引きつけようとする行動がよく観察されます。

この視線の使い方を、以下「交互注視」と呼ぶこととします。

ASD児の交互注視は、生後まもなくは定型発達児よりも観察されにくいものの、成長に伴って交互注視の頻度は高くなるようです (Nyström et al., 2019)。

すなわち、ASD児は視線の使い方に関しても、苦手なまま成長しないというわけではなく、本人なりに成長させていく力があることを示していると思います。

また、ASDのリスクが高い乳児59人とリスクが低い乳児51人を対象とした別の長期研究で、生後3年間にわたって子どもの目の動きの発達を追跡したものがあります。

この研究の結果では、最終的に自閉症と診断された子どものアイコンタクトのレベルは、生後間もない時期は定型発達の水準と同程度でしたが、生後2か月を過ぎたころからアイコンタクトの頻度が低下したとのことです(Jones, 2013)。

定型発達児の場合には、産まれて間もない新生児でさえ、他者の顔に特別な注意を向けて選好して見ることが多くの研究から示されています(例えば、Farroni et al., 2005)。

そして、他者の顔や目の領域に注意を向けることは、定型発達児では顔の特徴への注目や認識を促進するなど、社会的認知に影響を与えます(Senjyu & Jonson, 2009)。

要するに、定型発達児は産まれながらに他者の目や顔へ注意が引きつけられやすい性質をもっており、他者の目や顔に注目する経験を通して、視線や表情などの理解へと進んでいくと考えらえます。

では、一方でASD児の場合はどうでしょうか。

ASD児の場合には、産まれて間もなくは定型発達児と同じくらいの頻度でアイコンタクトをとっていました。

しかし、定型発達児ほど他者の目や顔へ注意が引きつけられるわけではないのかもしれません。

成長に伴い、自分で動けることが増えてくると、興味の幅も広がります。

そうなった時でも、定型発達児では相手の視線や表情に他の対象物よりも注意が引きつけられる性質がありますが、ASD児では相手の視線も表情も、周囲の対象物も同じように注意を引きつけるものなのかもしれません。

それを示すように、右向きの矢印を提示した時と、右向きの視線を提示した時とでの反応を比較した研究では、定型発達児は明らかに視線に注意が引かれるのに対し、ASD児では矢印と視線で差が小さいという結果でした(Senjyu et al., 2004)。

要するに、ASD児では、定型発達児が「特別に」もっている他者の顔や目に対する志向性を十分に持ち合わせていない子が多いといえるかもしれません。

「自閉スペクトラム症をもつお子さんは【目が合わない】」は本当か?

ここまでの解説で分かったかもしれませんが、「ASDを持つお子さんでも目は合います」

ただ、定型発達児のお子さんに比べると、その子にとって周囲にもっと魅力的な刺激がある場合には、相手とアイコンタクトをとるよりも、その対象物へ注意は簡単に引っ張られてしまいます。

要するに、環境によっては、目が合いにくくなりやすいといった感じでしょうか。

ASD児は定型発達児と同じように視線を処理することができることも多いですが、定型発達児が相手の視線を特に特別な情報として処理しているのに対して、ASD児は「それほどまでではない」といったクールな認識をしているようです。

それを示すように、

  • ASD児は相手の視線の方向がどちらを向いているかということを認識する課題で問題を示さない(Leekam et al., 1997)
  • 他者が見ているものに対して、ASD児も他者の顔を見てから反射的に相手が見ている対象物に視線をうつす行動がみられる(Chawarska et al., 2003)

といった研究報告があります。

まとめると、定型発達児ではかなり強力に相手の顔や目に注意が引きつけられるのに対して、ASD児では他者の顔や目の注意はそれほど特別な存在として認識されているわけではないということになります。

視線や顔への興味を育てる日常の中でのちょっとした工夫

信頼関係をはぐくむ

あなたが支援者の場合には、まず、何よりも信頼関係をはぐくむことが大切です。

誰しもがそうですが、好意を抱いている相手であれば顔をよく見ますよね?

子どもにとって見るに値する存在になることが大切です。

特別な興味に寄り添う

お子さんが何かに特別な興味を示しているのであれば、それに寄り添うところから始めましょう。

定型発達児では相手の視線を特別な存在として認識しており、相手が見ている視線を追った先にあるものに対してとても良く見ます。

一方で、ASDをもつお子さんの場合には、相手の視線の先にあろうがなかろうが、見る時間はそう大きく変わらないといわれています。

しかし、これがASD児にとって特別な興味の対象であった場合には話が変わり、相手の視線の先にあるものを良く見ていたとする報告もあります(Falck-Ytter et al., 2015)。

子どもの興味に寄り添いながら、その中で楽しいやりとりを経験させることが、結果的に相手の視線を大事なものだと認識することにつながります。

正面から視線を合わせて関わる

定型発達児であれば、別に正面から関わらなくても、横にいる母親が何を見ているのか等を視線を気にしながら遊んだりすることができています。

それほど他者の視線は気になる存在なんですね。

ただ、ASD児の場合には、視線がそこまで気になる存在ではない場合が多いようです。

そのため、他者の視線が、お子さんの視界に入るような環境を用意してあげることも大切です。

お子さんと遊ぶときには、できるだけ正面で、視線を落として(床に座って)遊んであげてください。

お子さんがパッと視線を上げた時に、「そこに保護者の顔があった」なんていう自然に他者の顔や目に注意を向ける経験が積み重なると良いですね。

模倣・真似することを楽しむ

まねっこ遊びや手遊び歌などは、自然と相手に注目する経験となるためおすすめです。

ただ、ASDをもつお子さんの中には、真似すること自体に楽しみを見つけられず、さそってもあまりやってくれないこともあるかもしれません。

そういった場合には、まずはお子さんがやっていることを、大人が真似してみせてあげてください

お子さんがミニカーを走らせていたら、大人も「ぶーん」とミニカーを走らせる。

お子さんが戦うふりをしていたら、大人も隣で「ふん!ふん!」とパンチのふりをする。

自分の真似をする存在はどうしても気になるものです。

それが大好きな大人であれば嬉しくて、何度も繰り返してくれるお子さんも多いように思います。

そうしながら、相手への注目をそだてていけると良いですね。

まとめ

自閉スペクトラム症のお子さんは、「目が合わないのか?」といった話題で解説してみました。

考え方によっては、ASDをもつお子さんが「目が合いにくい」のではなく、定型発達児が視線に対して特別な認識をしていて「目が合いすぎる」とも言えるかもしれません。

とはいえ、相手の顔や目に注目することは、後の社会性やことばの発達に大切な力につながっていきますので、大切に育てていきたいですね。

最後に

自閉スペクトラム症のお子さんたちは、相手と興味が共有できれば楽しそうに関わることができますし、人との関わりを好み・楽しんでいるお子さんたちも多いです。

ただ、少し相手の視線や表情、感情の認識の仕方に定型発達とは異なる特徴を持っている。

必要なところは支援してあげながら、彼ら(彼女ら)が自分らしく自己実現でき、毎日たのしく過ごせるように、僕のできることをやっていきたいな、と思う今日この頃です。